「よつばのクローバーをさがそうよ」
[[[クロォバァ]]]
ぽかぽかと暖かい、或る春の日に少年はともだちといっしょに、野原に来ていた。
勝手に家をぬけだして来たのがばれたら、きっと怒られる。
またしばらくは、屋敷の中に閉じ込められてしまうだろう。
でも、大切なのはともだちと一緒にクローバーを探すことだから、そんな事はどうでもいいのだ。
ともだちはとてもその提案が気に入ったようで、見ていてくすぐったくなるくらいの笑顔で太陽の光を頬に受けてはしゃいでいる。
目を開いて、ミドリ色としろ色の絨毯をただひたすら見つめ続ける。
よっつの葉っぱなんか何処にもなくて、ちょっといらいらして眼下に広がる細い茎と柔らかい葉っぱや花を、めしゃめしゃかき回してみる。
どこまでも続く似たような景色とみずいろの空。
そして、となりには楽しそうなともだち。
よっつの葉っぱなんか見つからなくても、けっこうそれだけで面白かったけれど。
そのうち飽きて、ともだちも飽きたみたいで、つまらなさそうな視線がぶつかりあって。
でも、もう戻ろうなんて、もったいなくてどちらも言い出せない。
だから、いっぱいシロツメクサを摘んで、おみやげにしよう、と言うともだちの提案を断る理由は何処にもなかった。
二人で摘んで、そのうちともだちがニヤニヤ笑って、両手にいっぱいのシロツメクサを投げつけてきた。
ぱらぱら体にかかる軽い衝撃と、ミドリのにおい。
笑い返して、仕返しに白と緑のカタマリをぶつけたら、ふざけてともだちが飛びかかってくる。
いきおいが強すぎて、やわらかくシロとミドリのクッションに受け止められて、周りに千切れた花や葉っぱが散らばって。
そのままもつれあいながら、緩やかな坂をともだちと一緒にごろんごろん転げて下り落ちていった。
おもいっきり、笑い声をあげながら。
首のまわりとかにかかる、息とか、くしゃくしゃの髪の毛がすごく、くすぐったくて。
いきおい余って、川に転げおちても、二人してまだ笑ってた。
よっつの葉っぱの事なんか、スッカリ忘れてた。
けれど、ともだちはしつこく覚えていたらしい。
「あった!」
ポタポタ落ちる水のしずくを拭こうともせずに、ぶちっと音がするくらいに強くひきむしって、輝くのは瞳の金色か眼鏡の硝子か。
「これ、あげる!
シロツメクサはだめにしちゃったけど、最高のおみやげだろう?」
そう言って差し出すというより、ぐいぐい押し付けてくるともだちが、とびっきりの笑顔で言うものだから。
言えなかった。
「でも、ぼくの家じゃ、おみやげを持って帰っても、よろこぶ人はいないんだよ。
だから、きみがとっておきなよ」
――なんて。
ともだちにありがとうと笑いかけながら、このずぶ濡れの服のいいわけを考えた。
ともだちの笑顔が曇るのをおそれたばっかりに、そのともだちがせっかく見つけてくれた四つ葉のクローバーは、母の命令をうけた屋敷しもべ妖精にすてられた。
でも、べつに少年はかまわなかった。
よっつの葉っぱなんかただの建前で、ほんとうはともだちと野原をころげまわってみたかっただけだから。
よっつの葉っぱのしあわせなんて、信じてなんかいなかった。
それには、たぶん、口実以上の価値は無い。
本当に価値があるのはその先にあるきっと――
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