(1)愛してる

 
卒業後、俺は世話になってたポッター家を出て近くにフラットを借りた。
マグルに紛れて暮らすのも、これで案外なかなか面白い。
幸い親しい友人にマグル出身の魔女がいて、しかも彼女はジェームズの恋人なので、何かわからない事があればすぐに聞けるし。
まっ、俺自身もマグル学の成績は優秀だったけどな。
やっぱ魔法界の視点からマグル界を見るのと、実際中に入って生活するのではだいぶ違う。

煉瓦と漆喰のフラットはどこからか侵入する隙間風がたまに寒い程度で、大きな暖炉も高い天井も光を沢山取り込める窓も気に入っている。
眩しいのは苦手だけど、俺たちにとって窓は大きいに越した事はない。時には玄関代わりになるもんだしな。



宵闇が始まりだすいつもの時間。
フラットの扉の前に立つ馴染んだ気配。

来た。
ノックも呼び鈴もなし。幾重にもかけた魔法を容易く解除し、合鍵で当たり前の様に入ってくる。

「よう、相棒」
「おう。今日は遅いな?」
「そうかい?いつもと同じ時間だと思うんだけど…」
「遅ェよ」

こんな俺でも一応お前を愛しちゃったりしてるから、待つ時間が長く感じるんだよ。

察しろ、この無神経眼鏡。










(2)お前はエライ


 
「あのさぁ」
「うん」
「お前、面倒くさくね?」
「何が?」

硝子レンズの奥のヘイゼルアイズが瞬きする。
小首を傾げてそんな仕草をしても、可愛くも何ともないぞ。

「いやさ、色々と。悪戯カンペキだし、真面目に勉強してて首席だし。可愛い彼女いるし」
「…何が言いたいんだい」
「人生充実してていーな」
「羨ましい? シリウスも彼女作れよ、特定の」

そうじゃねぇよ。
俺はお前だけでいっぱいいっぱいなのに、お前はいらんモンまで抱え込んでそんで楽しそうにしてるから。
そゆとこ、尊敬してるって言ってんの。

「面倒くせぇ」
「嘆かわしいな相棒よ。その気になれば君にできない事なんてないだろうに」

今のトコ俺がその気になるのはお前限定。
有難く思え。










(3)傍にいてくれるか?


 
「シリウス……君はいつまでこういう事を続ける気なんだ?」

ジェームズの声は、音域で言えば俺よりも高い。
奴がテノールなら俺はバリトン。
本来ならばこの柔らかなテノールで名前を呼ばれるのが俺は大好きだ。
なのに、ジェームズときたら思い切り声を低めドスを効かせて苦々しげ。
学生時代、クィディッチの優秀選手で首席という肩書きと共に女生徒を騒がせた端整な容貌は、凄む目付き。

「一週間も音信不通なんて!
 しかも、お前――血の臭いがする」

ギクリと身体が強張る。
ジェームズが俺を『お前』と呼ぶとき。それはもの凄く寛いでる時と…

「誰にやられた?」

スゥっと細められるハシバミ色の双眸。
ゆらりと立ち上るのは殺気を伴った物騒な魔力。


……本気で怒った時だ。


「浅手だ。舐めときゃ治る」
「そんな事を言ってるんじゃない」

激しく冷徹な眼差しとは裏腹な静かな口調。
すげぇ不気味。

ジェームズは結婚を控えた身だ。
おおっぴらに裏側で目立つような行動は避けた方がいい。
もう、お前一人の身体じゃないんだぜ。


それでなくても、どーゆーわけだかヴォルデモートはポッター家を廃そうと水面下で、或いはわざと表立って画策してる。
幸いブラック出身の俺サマはノーマーク。
こんな時動かずに、何の為の親友だ。

闇の陣営に密かに与する者達の名前と、幾つかの情報。
これっぽっちでお前やリリーにリーマスやピーター、俺の大事な奴らを少しでも危険から遠ざけられるのなら。
何をする事も厭わない。こんな傷、ものの数じゃねぇ。

「僕がどんな思いで、お前を待ってたかなんて知らないだろう…!」

知るわきゃねーだろ。俺はオマエじゃないんだから。
お前も、知らないだろうな。

「悪ィ……ちょっとヤバそうだったんだよ。
 で、撒こうと少し行方を晦ましてたらいつの間にか一週間経ってて」

俺がどんな気持ちで嘘八百並べてるかなんて。

「ヤバそうなら、早く帰って来い」
ジェームズが深い深い溜息をつく。

「その結果がコレ。待ち伏せしてやがんの」

相棒が難しい顔で奴が黙り込む。こんな出鱈目、絶対疑ってるんだろーな。
 
へっ、俺だってお前に嘘くらいつくんだよ。
信用してないわけじゃない。
心配かけたくないから。安心させたいんだ。


…それにしても、本当にヤバかった。

あと一歩間違えれば、俺は……確実に死喰い人の命を絶っていただろう。
闇に堕ちた下衆共にかける情けなんざ持ち合わせちゃいないが、アイツらだって魔法使いだ。
俺達と同じ。

殺してしまえば、殺人になる。


花婿の付添い人が犯罪者じゃ具合悪ィよな。



ヴォルデモート一派の蠢動はますます活発になっている。
それを暴き出し阻止せんと努める俺の存在は邪魔で仕方ない筈だ。
奴等のうちの誰か一人を、この手にかけてしまうのも時間の問題かもしれない。

「手当て、ちゃんとしてやる。来い」

突っ立ったままの俺をジェームズが手招きする。
馬鹿だな、なんでお前の方が痛そうな顔してんだよ。


なぁ、相棒。

俺がいつか、誰かの人生に終止符を打つ魔法でローブを汚しても。
大義名分も何もなく、ただ己と大切な何かを守る為に生者の未来を奪っても。

お前はそんな風に手当てしてくれるか?
血に染まった手を手当てしてくれるか?










(4)絶対譲らねぇ


 
ポッター夫妻は、俺を忠誠の術の秘密の守り人に指名した。
今世紀で最も偉大な魔法使いと評されるアルバス・ダンブルドアの申し出を蹴ってでさえ。

当然だ、という思いとほんの少しの優越感。
ジェームズとリリーに、命をあずけて貰えた事が誇らしい。

俺の忠誠も信頼も友情も魔力も何もかも全部お前達家族に捧げる。
まだ幼いハリー。
君を闇の帝王に渡したりするものか。

持てる全てでお前達をヴォルデモートから守る。
いずれ来るであろう闇の陣営との対決に備えなければ。

決意を新たに、少しだけ目頭を熱くした。










(5)ホント幸せ

 
ヘイゼルの瞳が俺を映し、にやっと笑う。
こいつと今度はどんな面白い事をしようか。

どきどきする。ワクワクする。
最高。

へへへ。
ホント幸せ。


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